2016年 04月 13日
化学史と生物学史 |
化学史学会という学会がある.自分は化学及び化学史にな~んの興味もない.しかし,以前福井藩出身の化学者・三崎尚之の小伝を書いたことがあり,その際にずいぶん化学史関係の論文を収集した.その折に化学史学会なる存在を知ったわけだ.
日本には生物学史学会と言うのはなさそうだ.しかし,日本科学史学会という学会が化学史学会とは別にあり(発音が同じでややこしい!),その科学史学会の分科会として「日本科学史学会生物学史分科会」がある.分科会とはいえジャーナルは年二回発行しており,これが日本唯一の生物学史関係の学会と言うことになるのだろう.
しかし,化学史学会と生物学史分科会は同じ科学史を扱っていても,ずいぶん傾向が違うように見受けられた.化学史の論文を書く人には当方のようなオタク系歴史好きが多いと見た.ここで言うオタク系とは萌えテレカを集めるという意味ではない(あ,俺のことやんけ).自分がいうオタク系歴史好きとは,客観的に見てどうでもええ事をなぜか調べたい,知りたくて仕方がない困った方々である.上記の三崎尚之を例に出そう.三崎は海外の有名化学書を翻訳しているのだが,その原本が「オランダ語版かドイツ語版か」を考察した論文がいくつかある.これを考察するために,著者たちはドイツ語版とオランダ語版を読み,かつ三崎の翻訳版と突き合わせたわけだ.明治初期に出された翻訳の原本が何語で書かれていようが,今となってはどうでもいいことなのだが,オタクな化学史研究者はそれを知りたくてしかたがないのである.ようするに化学が本職だけど,歴史が好きで好きでしょうがない人たちだ.
一方の生物学史分科会.ジャーナル「生物学史研究」のバックナンバーのタイトルを見ると,生物哲学,生物倫理,医療倫理といった論文が大半で,細かい実証に徹したものは少ない.たとえば,明治期東京帝大動物学教授だった石川千代松が「明治×年どこそこで,何をしていたか」を徹底的に追跡する,といった論文は見当たらないのである.いわゆる歴史オタクが書いたと思われる論文は「生物学史研究」にはなさそうだ.
「哲学に虫唾が走る」自分は生物学史分科会とは縁がなさそうだ.自分の趣向は明らかに化学史学会に近い.でも,動物学者の伝記を書いても化学史学会に投稿するわけにいかんし,困ったもんだ.
by nanamisuzuka
| 2016-04-13 18:32
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